2013年6月28日金曜日

IOC評価報告書を一つの武器として、最後の一手を!!




国際オリンピック委員会(IOC)が、25日(火)に2020年夏季五輪招致を目指す3都市の評価報告書を公表した。2016年夏季五輪招致時は、IOC総会直前というタイミングでの公表であったが、今回は、7月3、4日にIOC委員の前で行われるテクニカルプレゼンテーション(以下:プレゼン)の直前のタイミングでの公表となった。兼ねてから「IOC委員の中で報告書をしっかりと読んでない人も多数いる」という声があったが、今回は、タイミング的に多くのIOC委員が報告書を読んだ上で、各都市のプレゼンを評価する可能性が高いと予想される。

ここでのポイントは、どこの都市が最も優れているかという事ではなくて、IOCがどのような観点から各都市のプラス面とマイナス面を観ているかという事にあり、また、プラスに評価されている点を残り2回のプレゼンの活かしていくべきであると考える。

イスタンブールが「シリア情勢による治安上のリスク」、「交通網での渋滞や混雑」、「大規模な開発による投資リスク」、そして、マドリードが「スペイン経済の動向次第でリスクに直面する可能性がある」というマイナス面を指摘された中、東京の五輪開催についてのリスクを指摘される表現がほとんど見当たらない点は大きな意味があるのではと考えられる。
 
 東京の五輪開催能力について高評価を得たIOC評価報告書は、東京招致チームにとって大きな武器を得たといっても言いだろう。イスタンブールとマドリードを取り巻く社会状況を踏まえると、「安心・安全・確実」というメッセージはより効果的なものになっている。

 しかし、同時にローザンヌのスポーツ関係者からは「東京が五輪開催をする上でリスクが少ないというのは誰もが既に認識している」という声を聞くこともある。また、招致レースは最後の最後まで分からない部分があり、当日の各都市のプレゼンが終わるまで投票を決めてないIOC委員も多いと聞く。では、最後の最後に何が必要となってくるのか?

私個人の見解として、最後は、人の心を動かすことのできる「情熱的なメッセージ」が必要となってくるのではないかと考えている。確かに「安心・安全・確実」というメッセージは効果的なものになっているが、受け身なメッセージとして捉えられる事もある。そこで、「Why Tokyo?」という疑問に対して最後の一押し、そのメッセージを聞いたら人の心が動かされる積極的なメッセージが求められるのではないか。

 例えば、自身の卒業論文のテーマでもある「オリンピックレガシー:アジア初開催となった1964年東京五輪がソウル・北京五輪にどのような影響を与えたのか、そして、2020年東京五輪は成熟都市としてどのような影響を世界に与えることができるのか?」

IOCが、Urban and Economic Legacyを強調するように、国を成熟する過程(ハード面:インフラ)としてオリンピックは必要なツールとされてきた過去3回のアジア開催。今回は、成熟を終えた発展国が開催する「ソフト面を重視した(教育・文化)心のレガシー」を軸として「アジア初都市型五輪開催」でどういうレガシープランが作れるのかという点を積極的なメッセージとして落とし込むことがWhy Tokyo?」に対する答えの一つになるのではないかと考える。

2009年には、2016年五輪開催を勝ち取ったリオジャネイロがこの説明会で招致成功の流れ(風を吹かせた)を作ったと言われている。今回は、東京が説明会を通し、まずは、大きな流れを作り出すことが重要になってくる。残り2ヶ月が正念場になってくるだろう。

2013年6月18日火曜日

2020年五輪招致レースの情勢

久しぶりの更新である。

講義はもちろんだが、6月15日(土)ANOC総会(国内オリンピック委員会連合会)でJOC(日本オリンピック委員会)時代にお世話になった関係者方も続々とローザンヌに来られ、情報交換等、忙しい日々を過ごしていた。

この後、7月3日・4日には、今度は、IOC委員に向けた開催計画プレゼンテーション(以下:プレゼン)及び個別説明会がローザンヌで再度行われる予定となっている。

あくまでも個人の見解になるが、ここで一度、2020年五輪招致レースの情勢について振り返っておきたい。

今後の五輪招致レースの情勢を読み解く上で重要になってくるのは、以下の4つのポイントにあると考える。

1.トルコ・ブラジルの反政府デモ状況の推移
2.U-20 FIFAワールドカップ トルコ開催(2013年6月21日ー7月13日)
3.IOC評価レポート報告書(6月25日IOCにより公表予定)
4.7月3日・4日に行われるIOC委員に向けた開催計画プレゼン及び個別説明会

ご存知の方も多いと思うが、現在、トルコ・イスタンブールでは、反政府デモが収まりを見せるどころか混乱は長期化する流れとなっている。事の発端は、イスタンブールにあるゲジ公園の再開発に住民が反対した事にあるようだ。もともと、少数の再開発に反対するグループが座り込みを始めたところ、エルドアン政権に不満を抱く若者や野党勢力が加わり、数万人規模の大規模な抗議行動へと発展した。抗議行動はさらに首都アンカラをはじめトルコ全土の200か所以上に広がり、ショッピングセンターの建設にも市民が不満を抱くようになった。

 ローザンヌスポーツ関係者からは、「公園とショッピングセンターの開発でこれほど大規模な反政府デモに発展するのであれば、仮に五輪が決まった時にはどれほどの抗議活動が起こるのか?」と最もな意見を頂いている。

各3都市のインフラ等の五輪開発費は、マドリード(約1860億円)、東京(約4600億円)、イスタンブール(約1兆8000億円)の投資を計画している。イスタンブールの五輪開発投資額は、東京の約4倍、マドリードの約10倍と言われており、どれほどの金額が五輪開発に流れ、どれほどの抗議活動がでてくるのか想像できるだろうか。

トルコもそうだが、同時に考えなくてはいけないのは、ブラジルのコンフェデ杯に対する大規模デモの影響である。ワールドカップは、「国費の無駄使い、教育や医療にお金を使え」というのが彼らの要望のようだ。規模は、20万人までに拡大し、今後も抗議活動は続いていくと予想される。何しろブラジルは、2014年にFIFAワールドカップを抱え、2016年にはリオジャネイロ五輪が開催される予定となっている。

Urban and Economic Legacyと呼ばれように、この10年、国を成熟する過程(インフラ等)として「オリンピック」は必要なツールとされてきた。IOCもこの都市開発型五輪開催に賛同するように、2008年北京・2014年ソチ(ロシア)・2016年リオジャネイロ(ブラジル)というBRICSを始め、2020年は近年経済発展が著しいイスタンブール(トルコ)開催に前向きだったとされる。

しかし、国をあげての都市開発型五輪開催は、リスクが多く、ましてや連続開催になってくるとIOCも次第に予想を超える開発の遅れ(リオジャネイロは予定より2年遅れている)に限界を感じているようだ。ここで、今一度、国として成熟を終えた発展国が開催する「ソフト面を重視した(教育・文化)心のレガシー」都市型五輪開催に切り替える流れがでてきていると言えるのではないか。現在の世界情勢から「安心・安全・コンパクト」というのは大きな意味のあるメッセージになりつつある。

しかし、東京もまだ安心してはいけない。というのも、開催都市決定までまだ2ヶ月以上もあり、多くのローザンヌスポーツ関係者が「人は忘れやすい生き物。次は、いつ他の都市が問題を抱え状況が悪くなるかわからない。開催都市が決まる当日まで本当の所誰もわからないだろ。」と百戦錬磨の彼らは事の推移を冷静に観ている。仮に、イスタンブール(トルコ)が、今週末から行われるU-20FIFAワールドカップ開催を無事に終えたら、結局は大丈夫ではないかという流れにもなりかねない。いわゆる「同情票」と呼ばれる票がIOC委員の中からでてくる恐れもあるのだ。従って、「イスタンブール招致チーム」にとってU-20FIFAワールドカップは流れを取り戻す一つのポイントとなってくるだろうと予想される。

そして、もう二つ重要になってくるのが、1)来週にIOCから発表される評価レポートの内容と2)7月3日・4日に行われるIOC委員に向けた説明会である。もちろん、評価レポートはIOC委員全員に配られる予定となっておりIOCの視点からどのようにまとめられているかが気になる所である。

また、IOC委員に向けた説明会では、投票権を持つ約100人のIOC委員が参加する為(ANOC総会では約40名のIOC委員が参加)、非常に重要なアピールの場となる。2009年には、2016年五輪開催を勝ち取ったリオジャネイロがこの説明会で招致成功の流れ(風を吹かせた)を作ったと言われており、今回の説明会で東京が大きな流れを作れるかどうかというのが重要になってくる。

最後に、確かに、現状のローザンヌでの反応を見る限り、東京は一歩リードしているように感じるが、ライバル都市が巻き返す可能性は十分にあり、最後の最後まで油断ができない状況は続くのではないかと思う。