2013年12月12日木曜日

大学院生活を終えて














 
2013年12月7日(土)卒業式の日を迎えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

今年の10月から約2ヶ月間は東京に一時帰国をしており、久しぶりに帰ってきたローザンヌ(スイス)は、東京よりかは寒くないという印象を受けた。お昼頃にランニングに出かけると、寒い中にも暖かい陽が差し込みとても心地が良く、ランニングでローザンヌの街中を走っているとこの一年間の思い出がよみがえってきた。

この一年間を通して、基本的な私のブログのスタンスとして、個人的なローザンヌでの生活というよりかは、「2020年オリンピック招致の動向」について記してきたつもりだ。しかし、2013年9月7日(日本時間8日早朝)、東京が2020年五輪開催を勝ち取ってから、国際オリンピック委員会(IOC)が中心となり設立した大学院AISTS入学に関する問い合わせを各方面から頂くようになった。その為、一度、この卒業式が終了したタイミングでこの一年間を様々な視点から振り返ってみたいと思う。あくまでも個人的な主観であるが私のスイス・ローザンヌで過ごした1年間の経験が少しでも誰かの役に立てれば幸いである。
 

スポーツマネジメント大学院の必要性と選び方について

 
スポーツマネジメント大学院に行く必要があるのか?とスポーツ業界に興味のある方々から聞かれることが多い。私の意見としてはYESだ。今、このタイミングで大学院に行くかどうか迷っている人がいたら、私は間違いなく大学院、そして、なるべく海外の大学院に行くことをお薦めする。確かに高額な授業料、そして、学生という仕事をしていない立場に負い目を感じてしまうかもしれないが、長期的な視野を持ち、余裕を持って物事を考える事ができる環境が大学院にはあると思う。そして、その環境で今までの自分の人生を振り返り、キャリアアップの大きな一手を打つ準備が十分にできるのではないかと考える。

私の大学院に興味深いキャリアアップを成功させたクラスメイトがいる。30歳のラオスとカナダの二重国籍を持つフランクという男だ。彼は、面白い事にカナダの大学を卒業して、韓国にある塾で英語の先生をしていた。そして、2018年に韓国・平昌で冬季五輪が決まった事をきっかけにAISTSを目指す事を決め、無事に合格。それまでのキャリアにスポーツ業界の経験は一切なかったが、現在、IOCで働いている。

これは、どういう事なのか?恐らく日本国内の大学院にいて、IOCで働ける可能性は皆無であろう。しかし、国外のIOCとの関係が深い大学院で学べば、考えられない大きなジャンプアップをする事ができる。海外ではこういう事が起こりうるのである。

彼の戦略はこうだ。自分にIOCに入る十分なキャリアが無い事を自覚した上で、IOCで働くAISTSの卒業生(ちなみに30名程度在籍している)と毎週の様にミーティングを行い自分の顔を売る。また、IOCが中心となり設立した大学院である関係から、Team projectとしてIOC職員と一緒に働ける機会を得て、IOC職員に自分自身を直接アピールする事ができた。従って、IOC大学院に在籍していたからこそ関係者と密接に時間を共にする事が可能なのである。こうした視点からどこの団体が大学院をサポートしているかも非常に大きな判断材料となる。

そして、一年間努力を惜しまず、IOCとの関係を持ち続けた彼は、最後の一手としてカナダオリンピック委員会のインターンを勝ち取る。ちなみに、AISTSでは、卒業の為、2ヵ月間のインターンを義務づけられており、多くのクラスメイトがIOCIFs(国際スポーツ連盟)でインターンをしている。その結果、カナダオリンピック委員会での働きを認められた彼は、実績があるという事で念願のIOCで働ける事になった。もちろん、その大学院の環境を活かせるか、活かせないかは個人の努力次第だが、その環境は、充実していると言えるのではないかと思う。

従って、大学院の立地、どの団体がサポートしているのか、インターンは義務付けられているのか、卒業生の就職後はどうなのか、これらの要素が大学院の選び方の大きなポイントになってくるだろう。

 
AISTSのメリット


AISTSのメリットは、なんといってもローザンヌという立地にある事だ。そういう関係もあり、現在、ローザンヌに拠点を置く、IOCと多くのIFsは、新規採用はAISTSから取ろうという流れになっている。


また、講義内で数多くのオリンピックスポーツを体験させてくれる事である。入学したての1月に授業の一環で「カーリング」を体験した。まさか自分の人生でカーリングを体験するとは思わず、スポーツ競技に対する考え方を柔軟にさせてくれたのは言うまでもない。

そして、ローザンヌに拠点を置くスポーツ団体のほとんどに卒業生が在籍している事だ。ローザンヌネットワークにAISTSの存在は欠かせないと改めて感じている所だ。

 
日本と世界、オリンピックの今後

 
2014年のAISTSクラスメイトリストが発表された。来年度もまた、国際色豊かな40名になったと思う。男性と女性の生徒数を均等にしようとしている点は、欧米の進んだ考え方かもしれない。また、突出するべき点は、来年は韓国人生徒が5名も入学する予定である。毎年、中国人と韓国人生徒は、2名ずつ採用する傾向があるが、2018年平昌五輪の動きが活性化してきた影響もあると言えるのではないか。韓国のオリンピック関係者も入学するようだ。韓国は、日本経済の様に内需でも十分やっていける環境ではないため、海外に活路を見出す意識が強い気がする。こうした流れを観ると、2018年韓国は20年東京の前に素晴らしいオリンピックを世界に見せつけるのではないかと感じる。

一方で、2014年AISTS大学院生は、日本人入学者はゼロである。詳しい事はわからないが、日本人のオリンピックに対する関心が低いのか、国外に行き挑戦しようとする志のある人間が少ないのか、大学院の事務局側は残念そうであった。ただ、まだ東京五輪開催まで7年あるので、少しでも多くの日本人が入学できるように、私自身大学院のPRをしていきたいと考えている。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そして、日本人の「オリンピック」に対する関心を高める話題として、今後のオリンピック情勢にも触れておきたい。それは、「野球・ソフトボール」の2020年東京五輪競技への復活である。トーマス・バッハ(ドイツ)IOC会長は、「野球・ソフトボール」の復活に前向きであると同時に日本側も復活を望んでいる所である。しかし、一方で、オリンピックスポーツになる為、長年ロビー活動をしてきた「スカッシュ」、「空手」の存在もあり、簡単には結論はでないだろうと予想する。

では、何がポイントになってくるのか。「野球・ソフトボール」復活は、2024年五輪開催都市決定の影響にも関わってくるのではないかという話も聞く。どういう事かというと、2020年東京五輪に「野球・ソフトボール」が戻ってきたとしても、2024年パリ五輪が決まれば、「野球・ソフトボール」が果たして不毛の地、フランス・パリで行われるメリットがあるのか?という話になるのだ。

しかし、仮にも2024年アメリカ(立候補都市は未決定)の流れがでてきたら、「野球・ソフトボール」の復活は大きく前進するのではないか。母国開催となれば、アメリカ政府が動く可能性もあり、さすがのMLBも選手出場を妥協しなければならないだろう。そして、その流れができれば、2028年アムステルダム(前回大会からの100周年記念)という流れが作られる事になる。オランダは、欧州の中で野球の強豪国である。これが、ローザンヌの野球関係者が思い描いている道筋なのである。

 
最後に自分の事を少し

 
2013年AISTSの入学に向けて、二年の準備期間を要した。その一年は、仕事も辞め、英語の勉強だけに専念した。一年間、「オールイン」という言葉を合言葉に、寝る以外は、英語の参考書に向かってただひたすら問題を解く日々が続いた。はっきり言って、もう二度とあの時に戻りたくないと言う程、自分自身を追い込んだ。ただ、それでもまだネイティブとの差を感じる事がある。英語力の向上に終わりはないとつくづく痛感する。

卒業式では面白い事に、自分を表現する哲学の言葉を一人一人が述べるという伝統儀式があった。

私の選んだ言葉は、

 
Step by step. I can’t see any other way of accomplishing anything.

 
ステップ・バイ・ステップ。どんなことでも、何かを達成する場合にとるべき方法はただひとつ、一歩ずつ着実に立ち向かうことだ。これ以外に方法はない。というあの有名な米国の元バスケットボール選手、マイケル・ジョーダン選手の言葉である。

努力は決して裏切らない。本当にそう強く思った。そして、基本がないと応用がない。一つ、一つの積み重ねがいつか大きな目標に繋がる。よく言われる「点と点がいつかは繋がり線となる。」という言葉は、以前は意味が分からなかったが、今は、その意味が本当によくわかる。

私自身も、来年から微力ながらオリンピック関係の仕事に携わる事になると思うが、この7年間東京、日本がどう何を世界に向けて発信していくのか、世界は注目している。7年後は、AISTSも設立から20周年となり、2020年東京五輪で同窓会をする事が決まっており、私も幹事を任されている。きっと、多くのIOCIFsの関係者が集まるのだろうなと今から楽しみで仕方がない。7年後、自身も現在よりさらに成長できた姿を皆に見せられるよう、一つ一つしっかり頑張っていきたいと卒業式を終えてそう強く誓った。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
塚本拓也

 

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