2013年12月12日木曜日

大学院生活を終えて














 
2013年12月7日(土)卒業式の日を迎えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

今年の10月から約2ヶ月間は東京に一時帰国をしており、久しぶりに帰ってきたローザンヌ(スイス)は、東京よりかは寒くないという印象を受けた。お昼頃にランニングに出かけると、寒い中にも暖かい陽が差し込みとても心地が良く、ランニングでローザンヌの街中を走っているとこの一年間の思い出がよみがえってきた。

この一年間を通して、基本的な私のブログのスタンスとして、個人的なローザンヌでの生活というよりかは、「2020年オリンピック招致の動向」について記してきたつもりだ。しかし、2013年9月7日(日本時間8日早朝)、東京が2020年五輪開催を勝ち取ってから、国際オリンピック委員会(IOC)が中心となり設立した大学院AISTS入学に関する問い合わせを各方面から頂くようになった。その為、一度、この卒業式が終了したタイミングでこの一年間を様々な視点から振り返ってみたいと思う。あくまでも個人的な主観であるが私のスイス・ローザンヌで過ごした1年間の経験が少しでも誰かの役に立てれば幸いである。
 

スポーツマネジメント大学院の必要性と選び方について

 
スポーツマネジメント大学院に行く必要があるのか?とスポーツ業界に興味のある方々から聞かれることが多い。私の意見としてはYESだ。今、このタイミングで大学院に行くかどうか迷っている人がいたら、私は間違いなく大学院、そして、なるべく海外の大学院に行くことをお薦めする。確かに高額な授業料、そして、学生という仕事をしていない立場に負い目を感じてしまうかもしれないが、長期的な視野を持ち、余裕を持って物事を考える事ができる環境が大学院にはあると思う。そして、その環境で今までの自分の人生を振り返り、キャリアアップの大きな一手を打つ準備が十分にできるのではないかと考える。

私の大学院に興味深いキャリアアップを成功させたクラスメイトがいる。30歳のラオスとカナダの二重国籍を持つフランクという男だ。彼は、面白い事にカナダの大学を卒業して、韓国にある塾で英語の先生をしていた。そして、2018年に韓国・平昌で冬季五輪が決まった事をきっかけにAISTSを目指す事を決め、無事に合格。それまでのキャリアにスポーツ業界の経験は一切なかったが、現在、IOCで働いている。

これは、どういう事なのか?恐らく日本国内の大学院にいて、IOCで働ける可能性は皆無であろう。しかし、国外のIOCとの関係が深い大学院で学べば、考えられない大きなジャンプアップをする事ができる。海外ではこういう事が起こりうるのである。

彼の戦略はこうだ。自分にIOCに入る十分なキャリアが無い事を自覚した上で、IOCで働くAISTSの卒業生(ちなみに30名程度在籍している)と毎週の様にミーティングを行い自分の顔を売る。また、IOCが中心となり設立した大学院である関係から、Team projectとしてIOC職員と一緒に働ける機会を得て、IOC職員に自分自身を直接アピールする事ができた。従って、IOC大学院に在籍していたからこそ関係者と密接に時間を共にする事が可能なのである。こうした視点からどこの団体が大学院をサポートしているかも非常に大きな判断材料となる。

そして、一年間努力を惜しまず、IOCとの関係を持ち続けた彼は、最後の一手としてカナダオリンピック委員会のインターンを勝ち取る。ちなみに、AISTSでは、卒業の為、2ヵ月間のインターンを義務づけられており、多くのクラスメイトがIOCIFs(国際スポーツ連盟)でインターンをしている。その結果、カナダオリンピック委員会での働きを認められた彼は、実績があるという事で念願のIOCで働ける事になった。もちろん、その大学院の環境を活かせるか、活かせないかは個人の努力次第だが、その環境は、充実していると言えるのではないかと思う。

従って、大学院の立地、どの団体がサポートしているのか、インターンは義務付けられているのか、卒業生の就職後はどうなのか、これらの要素が大学院の選び方の大きなポイントになってくるだろう。

 
AISTSのメリット


AISTSのメリットは、なんといってもローザンヌという立地にある事だ。そういう関係もあり、現在、ローザンヌに拠点を置く、IOCと多くのIFsは、新規採用はAISTSから取ろうという流れになっている。


また、講義内で数多くのオリンピックスポーツを体験させてくれる事である。入学したての1月に授業の一環で「カーリング」を体験した。まさか自分の人生でカーリングを体験するとは思わず、スポーツ競技に対する考え方を柔軟にさせてくれたのは言うまでもない。

そして、ローザンヌに拠点を置くスポーツ団体のほとんどに卒業生が在籍している事だ。ローザンヌネットワークにAISTSの存在は欠かせないと改めて感じている所だ。

 
日本と世界、オリンピックの今後

 
2014年のAISTSクラスメイトリストが発表された。来年度もまた、国際色豊かな40名になったと思う。男性と女性の生徒数を均等にしようとしている点は、欧米の進んだ考え方かもしれない。また、突出するべき点は、来年は韓国人生徒が5名も入学する予定である。毎年、中国人と韓国人生徒は、2名ずつ採用する傾向があるが、2018年平昌五輪の動きが活性化してきた影響もあると言えるのではないか。韓国のオリンピック関係者も入学するようだ。韓国は、日本経済の様に内需でも十分やっていける環境ではないため、海外に活路を見出す意識が強い気がする。こうした流れを観ると、2018年韓国は20年東京の前に素晴らしいオリンピックを世界に見せつけるのではないかと感じる。

一方で、2014年AISTS大学院生は、日本人入学者はゼロである。詳しい事はわからないが、日本人のオリンピックに対する関心が低いのか、国外に行き挑戦しようとする志のある人間が少ないのか、大学院の事務局側は残念そうであった。ただ、まだ東京五輪開催まで7年あるので、少しでも多くの日本人が入学できるように、私自身大学院のPRをしていきたいと考えている。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そして、日本人の「オリンピック」に対する関心を高める話題として、今後のオリンピック情勢にも触れておきたい。それは、「野球・ソフトボール」の2020年東京五輪競技への復活である。トーマス・バッハ(ドイツ)IOC会長は、「野球・ソフトボール」の復活に前向きであると同時に日本側も復活を望んでいる所である。しかし、一方で、オリンピックスポーツになる為、長年ロビー活動をしてきた「スカッシュ」、「空手」の存在もあり、簡単には結論はでないだろうと予想する。

では、何がポイントになってくるのか。「野球・ソフトボール」復活は、2024年五輪開催都市決定の影響にも関わってくるのではないかという話も聞く。どういう事かというと、2020年東京五輪に「野球・ソフトボール」が戻ってきたとしても、2024年パリ五輪が決まれば、「野球・ソフトボール」が果たして不毛の地、フランス・パリで行われるメリットがあるのか?という話になるのだ。

しかし、仮にも2024年アメリカ(立候補都市は未決定)の流れがでてきたら、「野球・ソフトボール」の復活は大きく前進するのではないか。母国開催となれば、アメリカ政府が動く可能性もあり、さすがのMLBも選手出場を妥協しなければならないだろう。そして、その流れができれば、2028年アムステルダム(前回大会からの100周年記念)という流れが作られる事になる。オランダは、欧州の中で野球の強豪国である。これが、ローザンヌの野球関係者が思い描いている道筋なのである。

 
最後に自分の事を少し

 
2013年AISTSの入学に向けて、二年の準備期間を要した。その一年は、仕事も辞め、英語の勉強だけに専念した。一年間、「オールイン」という言葉を合言葉に、寝る以外は、英語の参考書に向かってただひたすら問題を解く日々が続いた。はっきり言って、もう二度とあの時に戻りたくないと言う程、自分自身を追い込んだ。ただ、それでもまだネイティブとの差を感じる事がある。英語力の向上に終わりはないとつくづく痛感する。

卒業式では面白い事に、自分を表現する哲学の言葉を一人一人が述べるという伝統儀式があった。

私の選んだ言葉は、

 
Step by step. I can’t see any other way of accomplishing anything.

 
ステップ・バイ・ステップ。どんなことでも、何かを達成する場合にとるべき方法はただひとつ、一歩ずつ着実に立ち向かうことだ。これ以外に方法はない。というあの有名な米国の元バスケットボール選手、マイケル・ジョーダン選手の言葉である。

努力は決して裏切らない。本当にそう強く思った。そして、基本がないと応用がない。一つ、一つの積み重ねがいつか大きな目標に繋がる。よく言われる「点と点がいつかは繋がり線となる。」という言葉は、以前は意味が分からなかったが、今は、その意味が本当によくわかる。

私自身も、来年から微力ながらオリンピック関係の仕事に携わる事になると思うが、この7年間東京、日本がどう何を世界に向けて発信していくのか、世界は注目している。7年後は、AISTSも設立から20周年となり、2020年東京五輪で同窓会をする事が決まっており、私も幹事を任されている。きっと、多くのIOCIFsの関係者が集まるのだろうなと今から楽しみで仕方がない。7年後、自身も現在よりさらに成長できた姿を皆に見せられるよう、一つ一つしっかり頑張っていきたいと卒業式を終えてそう強く誓った。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
塚本拓也

 

2013年9月17日火曜日

東京五輪決定の勝因と今後の日本スポーツ界に求められる事


202097日(日本時間8日早朝)は、日本にとって歴史的な一日となった。最終号となる今回は、留学の集大成という事もあり、約1年間、IOC(国際オリンピック委員会)の近い所で「オリンピック」や「招致の情勢」を学んできた身として、東京五輪決定の勝因と今後の日本スポーツ界に求められる事を最後のテーマとして考察したいと思う。


東京の勝因は? 

                            内部環境                             外部環境


 東京五輪開催決定以降、国内メディアの報道の仕方として最終プレゼンとロビー活動が東京の勝因として強調されていると思うが、振り返ってみると様々な要因があり、東京の勝因を述べるには、短期的な視点ではなく、長期的な視点で述べるべきだと考える。従って、上記の図を使い、東京の勝因について分析してみた。
 
まずは、2020東京招致委員会が変える事ができる内部環境と変える事ができない外部環境に分けてみた。

内部環境の強みから観てみると、招致イヤー前の自民党の圧勝による政府の安定はオールジャパン体制をより強固なものにした。政府の財政保障と東京の経済力を示す20社の国内スポンサーの確保は、東京五輪開催の「安心・安全・確実」を示すのに十分であっと考えられる。また、イスタンブールとマドリードのプレゼンの質問に、ドーピング問題が取り上げられ、IOC委員がドーピング問題を非常に気にしている事が明確であった。それに対する東京の反ドーピング精神の評価、ゼロ実績という数字の説得力が大きくプラスになったと思う。

反対に、内部環境の弱みを観てみると、2016年時に最後の最後まで国内支持率の低さが弱点に挙げられてきた。2020年時は、2013年3月に成熟都市としては評価される支持率70%という数字にもっていった事で弱点を克服したと思う。そして、2016年時にはロビー活動が弱いと指摘されていたが、今回のロビー活動では、影響力のあるIOC委員アハマド氏、IOC新会長になったトーマス・バッハ氏、8社中5社が日本企業のスポンサーである国際陸上連盟のディアク会長(セネガル)を味方にすることができた事は大きな強みであったと思う。また、最終プレゼンでは、過去の招致活動では見られなかった情熱的な演説もあり、最も懸念されていた汚染水問題の質問についてもIOC委員が納得するような回答であったのではないだろうか。
 
一方で、外部環境の機会を観ると、2020年にスポーツ大国・強豪国の五輪招致立候補が無かったのは本当に大きな要因だったと思う。IOCとの放映権が片付いていなかったアメリカ、2024年に100周年記念開催を目指すフランス(パリ)、2011年に招致を断念した南アフリカ、中東勢。仮に、この中のどこかの国が一国でも入ってくるだけでより厳しい戦いになっていたと予想される。また、「レスリングの除外候補問題」によってIOC委員のIOC理事に対する反発が起こった事で、IOC内では「バランス」という言葉が意識されるようになった。その「バランス」が再認識された事によって、12年振りのIOC新会長が欧州出身者に決まるだろうという流れの中で、開催都市は欧州以外でという流れになった事は幸運だったと思う。

最後に、外部環境の脅威を観ると、IOC本部のあるローザンヌでは、間違いなく反政府デモが起こる5月まではイスタンブールが招致をリードしていると感じた。IOC大学院にもイスタンブール招致関係者が講義に来る事が多く、彼らも自信に満ち溢れ、イスタンブールが2020年五輪開催地の本命であるという話を散々聞かされた。しかし、反政府デモが続いた6月下旬に、今度は、卒業生であるIOCIFs(国際スポーツ連盟)の職員から、マドリードが浮上しているという噂を聞くようになり、その勢いに東京は最後の最後まで苦しめられる事になったのではないか。

以上、様々な観点から要因を観てみるとすべてが重要な勝因になり、内部環境と外部環境の両方の視点を理解し、総合的に考える事が重要である。今回の東京招致を一言でまとめると「内部環境のオールジャパン体制での本気の招致活動と外部環境の立候補したタイミング」という要素がうまく合致し東京に流れを引き寄せたのではないかと思う。

最終プレゼン、海外の反応

2020年東京五輪開催が決定するとローザンヌのスポーツ関係者・同級生から祝福のメッセージが届いた。そのメッセージで共通して言える事は、日本人らしからぬ情熱的で、かつ感動的なプレゼンであったという事だ。JOC竹田会長の「Vote for Tokyo」を繰り返し訴えていた事、「本来、日本人は遠まわしに物事を言いがちだけど、あのストレートな訴えには仮に自分がIOC委員だったら心を動かされていたと思うよ。」という意見も聞く。東京の最終プレゼンは、海外の人達にとって、良い意味でサプライズだったと言えるのではないか。

 
 

 
今後の日本スポーツ界に求められる事
 
今後の日本スポーツ界の発展の為に、するべき事はたくさんあると思うが、私自身ローザンで約一年間過ごしてきた身として、以下の二点の重要性を感じる。
まず、一点目は、スポーツ環境をマネジメントできる人材育成である。

これは、トップアスリートを育成するという意味ではない。選手育成の投資は今後も引き続き行われると思うが、私はそれよりも大事なのは健全なスポーツ環境を作り出せるスポーツマネージャーの育成が必要だと考える。それには、海外で活躍する人材と国内で活躍する人材の育成の二通りがあるのではないか。

一つ目は、海外で活躍できる人材の育成。今後7年間、世界のスポーツ界とコミュ二ケーションを取る機会が増える中、世界のスポーツ事情を熟知し、コミュ二ケーション能力を発揮する人材が必要になる事は間違いないと思う。私自身、ローザンヌに約1年間住んでみて、IOC・オリンピックスポーツであるIsで働く日本人職員が一人もいない現状を目の当たりにし、IOCIsの本部が集中するローザンヌに、活きた情報を収集する為にも現地で日本人が活躍する必要があると考える。例えば、スポーツの国際ルールは、ローザンヌで決まると言っても過言ではない。その場にいなければ、過去の例(スキー・柔道・バレーボール等)のように、日本人に不利なルールに作りかえられる事に抵抗できなくなる。日本のスポーツ環境をうまくマネジメントする意味でも選手以外のマネジメントできる人材に対する投資も必要なのではないか。

そして、二つ目は、国内の人材育成。NFs(国内スポーツ連盟)・リーグ・チームといったスポーツ団体側に経営感覚・マネジメントをできる人材を育成するべきだと考える。それが、スポーツ文化の浸透に繋がっていくのではないだろうか。
 
次に重要視する点は、2020年東京五輪開催では、成熟都市としてのソフト面に重きを置いたレガシープランを作り出す事が大事だと思う。
 
日本が成熟する過程で必要だった64年東京五輪は、ハード面のインフラ整備を強化し、東海道新幹線や国立競技場が出来きた。64年に作られたハード面のレガシープランは今も引き継がれている。しかし、今の時代に大切なのは心のレガシープランではないか。例えば、長野の一校一国運動(市内の小学校が一つの国を決め、相手の国や地域を調べるなど、その国からやってきた選手を学校に招いて交流をはかる運動)が開催から15年以上たった今も続いており、2020年の東京五輪でも継続していこうという話がある。
 
また、スポーティングレガシーの観点から言えば、「スポーツを通した若者の教育」は、携帯電話・インターネットでのゲームの普及に伴い、若者の肥満率の増加・運動する機会の減少に役立つと思う。さらに、その集大成として、2030年~40年にユースオリンピックゲームの日本への招致も考えてみるのも一つだと考える。
 
同時に、若者だけではなく、世界に先駆けて高齢化社会を迎えている日本にとって、生涯スポーツに重きを置く必要もあると思う。4年ごとに開催される中高年齢者のための世界規模の国際総合競技大会、ワールドマスターズの招致も目指すべきではないか。日本で国際大会が開催されるという事は、開催する側の当事者意識が強くなる為、自ずと若者・中高年者の英語教育にも力が入り、スポーツに対する意識が高まるのではないだろうか。まさしく、日本が目指すスポーツ大国に近づけると考える。

2013年9月4日水曜日

IOC総会の結果はどうなるのか?


(Source from 時事通信社)
いよいよ、2020年夏季五輪開催都市の決定まであと3日となった。もう既に東京の招致関係者も国際オリンピック委員会(IOC)総会が開かれるブエノス・アイレス(アルゼンチン)に入り、最後のロビー活動をしている頃だろうか。「4年前の雪辱」を果たしたい東京、今回で「3回目の五輪招致」となるマドリード、「イスラム圏初」の五輪開催を望むイスタンブールの3都市が接戦を繰り広げている。勝負の行方はどうなるのか?

 様々な情報を分析した結果、あくまでも個人的な主観になるが、今回のIOC総会で決まる、1)2020年夏季五輪開催都市 2)2020年夏季五輪からの競技 3)新IOC会長選を予想してみようと思う。

 まずは、その前にブエノス・アイレスで開かれるIOC総会のスケジュール(現地時間)をもう一度確認しておきたい。IOC総会は、ブエノスアイレス・ヒルトンが会場となり、

1)9月 7日 2020年夏季五輪開催都市の決定
2)9月 8日 2020年夏季五輪からの競技の採用
3)9月10日 第9代IOC会長の選出

以上のスケジュールで103名のIOC委員によって決定される。
※開催都市の決定に関しては、立候補都市(国)のIOC委員(東京1人、マドリード3人、イスタンブール1人)とロゲ会長は投票できないので最大97人のIOC委員の投票となる。

  では、IOC総会の最初の決定事、2020年夏季五輪開催都市はどこに決まるのか?

    正直、接戦という事もありかなり予想は難しいが、1回目の投票では、東京35票、マドリード35票、イスタンブール27票(もちろんプラスマイナスはある)計97票の僅差で東京とマドリードが2回目の決選投票に行くと考えられる。ここでのポイントは、1回目の投票で一番になる事が重要ではない。1回目は、僅差になる為、まずは、1回目で落選しない事が何よりも大事なのである。そして、2回目の決選投票で重要な事は、1回目の上位2都市は僅差になる事が予想される為、1回目で落選した都市に投票したIOC委員の票をいかに決選投票で票を得る事ができるようにロビー活動・交渉ができているかである。それができている都市が最後に勝つだろう。

   個人的な見解としては、そもそもマドリードの強力なロビー活動でマドリードへの投票を決めているIOC委員は1回目で投票してくる可能性が高く、2016年のリオジャネイロとマドリードにあったラテン同盟票という分かりやすい助け合いは今回ないように思う。従って、2回目で正当な評価(自由投票)という流れになれば、東京が有利になるのは間違いない。理由として、マドリードは経済不安を抱えているからだ。IOCの現状を考えれば経済不安というのは何よりも大きな問題である。スペイン経済は、今年の4月~6月期のGDP成長率こそマイナス0.1%とマイナス幅が縮まっているが、失業率は全体で25%を越え、若者に関しては50%を上回り、景気回復の兆候が見えない事態は深刻である。クラスメイトのスペイン人も、正直、支持率ほど五輪招致は盛り上がっていない、そして、その前に深刻である雇用対策に集中して欲しいという意見である。

 さらに、14年ソチ五輪は、当初予算の100億ドル(1兆円)から500億ドル(5兆円)になる見込みで当初予算の5倍費用がかかる予定となっている。この金額は、これまでのオリンピックの中で最も高い大会費用となる。一般的に、オリンピックの予算は平均して当初予算の約1.8倍超過する傾向がある。成熟都市での開催であったロンドン五輪でさえ、当初予算の3倍以上の予算がかかり、16年リオ五輪も当初予算を大幅に越えるだろうと予想される。現在、五輪開催に費用がかかりすぎている点はIOCの一番の悩みだろう。マドリードは、いくら低予算を打ち出しているからといっても、準備金が不足する可能性も十分に考えられ、IOC委員の頭の片隅に危機感は残っているはずだ。一方で、東京は、約4000億円の開催準備金も既に確保しており、政府による強固な支援を受けているという現実的な判断に最後は有利に動くように思う。それほど、IOCは新会長が決まる前のタイミングで大きなリスクは取りたくないという考えなのではないか。従って、2020年夏季開催都市は東京に決まる事を予想したい。

   2020年夏季開催都市が決まるポイントは他にもある。以下の三点を挙げたい。

   まずは、1)最終プレゼンテーション(以下:プレゼン)である。
   恐らく、何票かはまだ開催地を決めていないIOC委員の票はあるのではないかと思う。いわゆる、浮動票である。これは、必ず毎回何票かはあると聞く。だったらその浮動票は何できまるのか?それは、最後の印象、つまり、最終プレゼンの印象である。2012年の当時ロンドン五輪招致委員会の委員長であったセバスチャン・コー氏が、当時パリ優勢の中、若い世代へのスポーツの盛り上がりを前面に出し、他の都市と一味違ったプレゼンを行いIOC委員に良い印象を与えたのが勝因の一つだと言われている。従って、最終プレゼンは、最も大事なプレゼンなのである。また、同時に、誰が最終プレゼンに登壇するのかも重要である。今回、皇族である高円宮妃の久子さまの最終プレゼン登壇は、2016年五輪招致時になかった事であり、東京五輪招致にプラスになる事は間違いない。

   また、2)IOCに絶大な影響力があるアハマドIOC委員(クウェート)とIOC委員に顔が利き、スポーツアコードの会長、そして、国際柔道連盟の会長でもあるビゼール氏(ルーマニア)が最終的にどの都市をサポートし、どういう動きをするのかというのも大きなポイントである。

 そして、3)日中韓関係、アジア票の支持も大事である。IOC委員である国際武術連盟の于再清(ウ・サイセイ)会長(中国)がIOC理事をおさえているように(※下図参照。スポーツアコードでの武術票は1回目を除き最後まで4票は堅かった)、また、アフリカにも影響力のある中国のIOC委員の動向が気になる所である。しかし、一方で、FIVB(国際バレーボール連盟)で会長を務めた経験もあり、中国オリンピック委員会の事務総長を務めた事がある魏記中(ウェイ・ジジョン)氏は中国のIOC委員とも繋がりが強いと聞く。彼の下で働いた事がある中国オリンピック委員会に在籍するクラスメイトは、「魏記中(ウェイ・ジジョン)氏は東京が有利という見解を持っている」と教えてくれた。最後まで、中国のIOC委員の動きから目が離せない。


                                           (Source from 朝日新聞)

      次は、残り一枠のスポーツ競技。5月のスポーツアコードで行われた投票を見て頂ければわかると思うが、1回目の投票で過半数を取ったレスリングはもはや戻さなくてはいけない競技というIOCの認識があるのがわかる。IOC理事は、事前にIOC委員からの声も聞いているはずなので、IOC委員の意見は反映された結果となっているに違いない。つまり、最後の一競技として残るのは、レスリングになる可能性が非常に高いと予想する。一方で、開催地が東京に決まれば野球・ソフトボールの可能性もあると少しは考えられるかもしれないが、2024年の競技継続の事も考えれば2020年は東京だからという判断は通用しないのではないかと思う。

    そして、最後に決まる第9代IOC会長は、トーマス・バッハ氏(ドイツ)が有力であると予想する。理由として、どの情報でもやはりトーマス・バッハ氏の名前が1人歩きしているからだ。また、唯一の対抗馬である同じIOC副会長のセルミャン・ウン氏(シンガポール)に関して、欧州出身のIOC委員が44人もいる欧州主導のIOCが、そのリーダーをアジア人にする事はなかなか考えにくいと思う。ローザンヌネットワークを観てきた自分自身がそれを一番痛感する点でもある。

  最後に、何度も言っているが、今後、招致レースはますます難しくなると予想される。今回の有力な候補がいない状況下で、絶好のチャンスを逃すと今後日本にオリンピックを持ってくるのは非常に難しくなる。2024年立候補を検討している国は、フランス・アメリカ・ロシア・中東・アジア新興国・アフリカと強敵揃いだからである。

     また、今回の招致合戦で世界のスポーツ界における日本の影響力がどの程度なのか分かる。オールジャパン体制として2016年時とは明らかな違いがある政府の支援、安倍首相が中東の票を固めるべく中東訪問をするなど、やれる事はすべてやっている本気の今回は、外交力と政治力も可能な限り利用しているはずだ。そんな中、万が一負ける事があれば、日本の世界のスポーツ界に対する影響力の低さを露呈し、そして、今後、ますます、その影響力が無くなる事が明確になる。

 日本がスポーツ大国になるためにも、世界のスポーツ界に影響力を持つためにも、今回の招致合戦は絶対に負けられない戦いなのである。

2013年8月24日土曜日

招致レースを読み解く3つのポイント




 2020年オリンピック開催地決定まであと15日となった。この段階で勝負の行方がわからない招致合戦はなかなか珍しい。例えば、2008年北京五輪開催が決まった時は、北京の圧倒的な勝利で予想通りの結果となった。そして、2012年ロンドン五輪開催が決まった時は、パリの優勢が伝えられ、最終的にはロンドンが僅差の勝利となった。最新では、2016年リオ五輪も発表前には優勢の流れがあったと言われている。

一方で、2020年五輪招致では、どの都市が有利かという話は全く出てこないし、「3都市横一線」という表現がよく使われている。しかし、厳密に言えば、東京とマドリードが競い合い、少し後ろからイスタンブールが追っているという表現が正しいのかもしれない。ここへきてのイスタンブールの失速は否めない。その理由として、1)反政府デモ2)U-20ワールドカップの記録的な最少観客集客数3)ドーピング問題 とあらゆる問題が山積しているのは大きな失点である。

12年振りにIOC新会長が決まる9月の総会は、IOCにとって非常に重要な転換期であり、このタイミングで大きなチャレンジをしない可能性が高いと言われている。以上の理由から、「安心・安全」と「低予算」を打ち出している東京とマドリードが有利に見られていると考えられるのではないか。

では、東京とマドリードの優劣はどう見極めるべきなのか?私なりの見解を以下の3つの視点からまとめてみた。

1)IOC会長選と開催都市の関係 2)2018年YOG(ユースオリンピックゲーム)開催都市決定の背景 3)2024年五輪開催立候補都市の3つの視点から佳境を迎えた招致レースを観てみると面白いと思う。

IOC会長選と開催都市の関係

IOCは絶妙なバランスを保つ組織である。5月のスポーツアコードでも改めて感じたが、格闘技系のレスリング、室内スポーツのスカッシュ、そして、サプライズの一つでもあったチームスポーツの野球・ソフトを各3都市に合わせた形で残す事となった。極論を言えば、別に2種目を残す形でも良かったはずであるが、各国のスポーツ界からの反発を抑える為、うまくバランスを取って物事を前に進めていくあたりは、IOCが長年培った絶妙なバランス感覚なのであろう。そして、そのバランス感覚は、IOC会長選と開催都市決定にも密接に関係しているように思う。欧州開催だった初期の五輪を除いて、会長就任と開催都市は同大陸になっていないケースがほとんどなのである。例えば、アメリカ出身のブランデージIOC5代目会長就任後、初めて五輪開催が決定した都市は1960年ローマ五輪である。また、アイルランド出身のキラニンIOC6代目会長就任後、初めて五輪開催が決定した都市は1980年モスクワ五輪である。さらに、1980年サマランチ会長就任(欧州)、ソウル五輪開催決定(アジア)、2001年ロゲ会長就任(欧州)、北京五輪開催決定(アジア)。以上の観点からみれば、次期IOC会長はトーマスバッハ氏が優勢な中、東京五輪開催(アジア)が有利に動くかもしれない。

2018年ブエノス・アイレス開催決定(YOG)

2018年ユースオリンピックゲーム開催地にブエノス・アイレスが選ばれた事は驚くべき結果だと言われている。事前の予想では、コロンビアのメデジン、犯罪率が高く非常に危険な都市だったが、1980年以降スポーツと文化の都市としての改善努力をし、コロンビアとしても一押しのストーリー性あるメデジンが勝つだろうと大方の予想だった。しかし、結果、ブエノス・アイレスの逆転勝利。その裏の糸を引いていたのが、クウェート王族のアハマドIOC委員だと言われている。彼のビジネスパートナーである、スペインオリンピック委員会の会長アレハンドロ・ブランコ氏がブエノス・アイレスで働く事に興味を持ちアハマド氏にお願いしたと噂されている。そして、ここで取引されたブエノス・アイレス票は、次に、マドリードに流れるとの噂も聞く。ここが一番東京にとって脅威な点である。

2024年五輪開催地は?

2020年の五輪開催都市決定によって、2024年の五輪開催都市氏もおのずと絞られてくる。よく言われているのが、2024年のパリ五輪開催説が噂されているが、2024年のパリ開催説は本当なのだろうか?現在、2024年に立候補を検討している都市(国)は、放映権問題が片付いたアメリカ、スポーツ界に影響力のあるロシアも参戦、中東カタール、新IOC会長候補バッハ氏のベルリン、南アフリカやアジアの新興国と激戦が予想される。2020年がマドリードになれば、2024年は欧州の可能性はほとんどなく、2020年東京になれば、2024年は欧州の可能性が高いと言われるだけあり、2024年立候補都市も水面下で2020年招致活動に影響を与えているに違いない。

以上の観点も大事だが、最後は、ロビー活動での票固めの結果となるだろう。恐らく、1回目の投票で過半数の票を獲得する都市はないと思うが、勝負は、上位2都市の2回目の決選投票でいかにイスタンブールの票を東京に入れてもらえるようにするか、ここでの交渉が最後の勝負の分かれ目となるのではないか。

 オリンピック開催地が決まるまで残り15日。そして、同時に、日本のスポーツ界が7年後の本番に向けて大きく動きだす日となって欲しい。東京にオリンピックが来るか来ないかでは、日本のスポーツ界の発展のみならず、アベノミクスの第3の矢の「成長戦略」にも大きく影響する事になるだろう。日本、東京の勝利を強く願って。ローザンヌより

2013年7月13日土曜日

マドリードが急浮上してきた理由とは?




 2020年夏季五輪招致を目指す3都市が7月3日/4日と2日間に分けてIOC委員に対してプレゼンテーションを行った。ここでのポイントは、東京がいかに他都市と差をつけて「招致成功の流れ」を作ることができるのかだったが、結論から言うと3都市は接戦となり、残り2ヶ月のロビー活動という最終段階での票固めに勝負が委ねられるという形になったのではないかと感じている。

 3都市が接戦になった要因としては、決して東京が低い評価を受けたという訳ではなく、マドリードがそれを上回る高い評価で急浮上してきた結果だと言える。

では、なぜ、今まで劣勢だったマドリードが急浮上してきたのか?一つの要因として、1992年バルセロナ五輪に出場したスペインのフェリペ皇太子の早い段階での起用が大きかったと思われているが、果たしてそれだけの理由でマドリードの存在感が増したのだろうか?

今週の月曜日に、AISTSの年次総会があり、約50名の卒業生が大学院に集結した。IOC、ソチ冬季組織委員会、リオ夏季組織委員会とIs等に、現在、働いている卒業生から有意義な情報を得る事ができたので共有したいと思う。

卒業生からの情報をまとめるとポイントは大きく分けて二点あると考えられる。

   1) 低予算型五輪を望むIOC

ソチ冬季五輪の開発費が予算の4倍以上(約5兆円)に膨らんでおり、IOCがAnti-Giantism思考にある。また、ブラジルW杯への公費支出に反応した大規模な反政府デモの影響により、FIFAがブラジル大会で見込まれる収益から少なくとも1億ドル(約98億円)を還元する方針を表明した事にIOCが敏感になっている。従って、今回は、IOCも低予算型の五輪開催を強く望んでいるようだ。  

2)クウェート王族出身のIOC委員であるアハマド氏の存在感
 
アジアオリンピック評議会(OCA)、各国オリンピック委員会連合(ANOC)の会長であるクウェート王族出身のIOC委員であるアハマド氏の影響力が大きく、ソチ冬季組織委員会内では彼をKingmaker(政界実力者)と呼ぶ。スポーツアコード会長選でのビゼール氏のサポート、AFC会長選でのサルマーン氏のサポートに彼は深く関わり、会長選を成功させている。今回のIOC会長選では、トーマス・バッハ氏をサポートしており、開催都市に関しては、水面下でマドリードをサポートしているとソチでは噂になっている。理由として、アハマド氏は20242028あたりにペルシア湾岸にイスラム初のオリンピックを持ってきたいと考えているようだ。それには、イスラム初のイスタンブールとアジア開催の東京を回避しないといけない理由があるからだ。

 以上の2点に加え、米国オリンピック委員会(USOC)で働いていたクラスメイトは、2024年五輪はアメリカに来る自信があると言う。その理由として、昨年にIOCとの間で揉めていた放映権の分配問題が解決された事、そして、USOCのプロブスト会長が新IOC委員になることをIOCが認めた事は大きな出来事である。これで、米国は、IOC委員は4人いる事になり、五輪招致の影響力も取り戻せると考えているようだ。

 最後に、以上の話を聞くと2024年はパリの100周年記念によってパリ開催が確実と言われた話は少し疑問に思えてくるし、2020年ヨーロッパ開催の可能性もあるのではないか。ANOC総会が終了してから6月まではマドリードの劣勢が噂されてきたが、7月はマドリードが急浮上しているという話を聞く。五輪招致レースの情勢は日々変化するものだと感じると同時に、徹底した票固めが必要だと改めて痛感させられる。There's no smoke without fire(火のない所に煙は立たない)と言った卒業生の言葉が忘れられない。マドリードが急浮上してきたのは、様々な思惑が交錯し、単純ではなく、確かな理由があるのだ。

2013年6月28日金曜日

IOC評価報告書を一つの武器として、最後の一手を!!




国際オリンピック委員会(IOC)が、25日(火)に2020年夏季五輪招致を目指す3都市の評価報告書を公表した。2016年夏季五輪招致時は、IOC総会直前というタイミングでの公表であったが、今回は、7月3、4日にIOC委員の前で行われるテクニカルプレゼンテーション(以下:プレゼン)の直前のタイミングでの公表となった。兼ねてから「IOC委員の中で報告書をしっかりと読んでない人も多数いる」という声があったが、今回は、タイミング的に多くのIOC委員が報告書を読んだ上で、各都市のプレゼンを評価する可能性が高いと予想される。

ここでのポイントは、どこの都市が最も優れているかという事ではなくて、IOCがどのような観点から各都市のプラス面とマイナス面を観ているかという事にあり、また、プラスに評価されている点を残り2回のプレゼンの活かしていくべきであると考える。

イスタンブールが「シリア情勢による治安上のリスク」、「交通網での渋滞や混雑」、「大規模な開発による投資リスク」、そして、マドリードが「スペイン経済の動向次第でリスクに直面する可能性がある」というマイナス面を指摘された中、東京の五輪開催についてのリスクを指摘される表現がほとんど見当たらない点は大きな意味があるのではと考えられる。
 
 東京の五輪開催能力について高評価を得たIOC評価報告書は、東京招致チームにとって大きな武器を得たといっても言いだろう。イスタンブールとマドリードを取り巻く社会状況を踏まえると、「安心・安全・確実」というメッセージはより効果的なものになっている。

 しかし、同時にローザンヌのスポーツ関係者からは「東京が五輪開催をする上でリスクが少ないというのは誰もが既に認識している」という声を聞くこともある。また、招致レースは最後の最後まで分からない部分があり、当日の各都市のプレゼンが終わるまで投票を決めてないIOC委員も多いと聞く。では、最後の最後に何が必要となってくるのか?

私個人の見解として、最後は、人の心を動かすことのできる「情熱的なメッセージ」が必要となってくるのではないかと考えている。確かに「安心・安全・確実」というメッセージは効果的なものになっているが、受け身なメッセージとして捉えられる事もある。そこで、「Why Tokyo?」という疑問に対して最後の一押し、そのメッセージを聞いたら人の心が動かされる積極的なメッセージが求められるのではないか。

 例えば、自身の卒業論文のテーマでもある「オリンピックレガシー:アジア初開催となった1964年東京五輪がソウル・北京五輪にどのような影響を与えたのか、そして、2020年東京五輪は成熟都市としてどのような影響を世界に与えることができるのか?」

IOCが、Urban and Economic Legacyを強調するように、国を成熟する過程(ハード面:インフラ)としてオリンピックは必要なツールとされてきた過去3回のアジア開催。今回は、成熟を終えた発展国が開催する「ソフト面を重視した(教育・文化)心のレガシー」を軸として「アジア初都市型五輪開催」でどういうレガシープランが作れるのかという点を積極的なメッセージとして落とし込むことがWhy Tokyo?」に対する答えの一つになるのではないかと考える。

2009年には、2016年五輪開催を勝ち取ったリオジャネイロがこの説明会で招致成功の流れ(風を吹かせた)を作ったと言われている。今回は、東京が説明会を通し、まずは、大きな流れを作り出すことが重要になってくる。残り2ヶ月が正念場になってくるだろう。

2013年6月18日火曜日

2020年五輪招致レースの情勢

久しぶりの更新である。

講義はもちろんだが、6月15日(土)ANOC総会(国内オリンピック委員会連合会)でJOC(日本オリンピック委員会)時代にお世話になった関係者方も続々とローザンヌに来られ、情報交換等、忙しい日々を過ごしていた。

この後、7月3日・4日には、今度は、IOC委員に向けた開催計画プレゼンテーション(以下:プレゼン)及び個別説明会がローザンヌで再度行われる予定となっている。

あくまでも個人の見解になるが、ここで一度、2020年五輪招致レースの情勢について振り返っておきたい。

今後の五輪招致レースの情勢を読み解く上で重要になってくるのは、以下の4つのポイントにあると考える。

1.トルコ・ブラジルの反政府デモ状況の推移
2.U-20 FIFAワールドカップ トルコ開催(2013年6月21日ー7月13日)
3.IOC評価レポート報告書(6月25日IOCにより公表予定)
4.7月3日・4日に行われるIOC委員に向けた開催計画プレゼン及び個別説明会

ご存知の方も多いと思うが、現在、トルコ・イスタンブールでは、反政府デモが収まりを見せるどころか混乱は長期化する流れとなっている。事の発端は、イスタンブールにあるゲジ公園の再開発に住民が反対した事にあるようだ。もともと、少数の再開発に反対するグループが座り込みを始めたところ、エルドアン政権に不満を抱く若者や野党勢力が加わり、数万人規模の大規模な抗議行動へと発展した。抗議行動はさらに首都アンカラをはじめトルコ全土の200か所以上に広がり、ショッピングセンターの建設にも市民が不満を抱くようになった。

 ローザンヌスポーツ関係者からは、「公園とショッピングセンターの開発でこれほど大規模な反政府デモに発展するのであれば、仮に五輪が決まった時にはどれほどの抗議活動が起こるのか?」と最もな意見を頂いている。

各3都市のインフラ等の五輪開発費は、マドリード(約1860億円)、東京(約4600億円)、イスタンブール(約1兆8000億円)の投資を計画している。イスタンブールの五輪開発投資額は、東京の約4倍、マドリードの約10倍と言われており、どれほどの金額が五輪開発に流れ、どれほどの抗議活動がでてくるのか想像できるだろうか。

トルコもそうだが、同時に考えなくてはいけないのは、ブラジルのコンフェデ杯に対する大規模デモの影響である。ワールドカップは、「国費の無駄使い、教育や医療にお金を使え」というのが彼らの要望のようだ。規模は、20万人までに拡大し、今後も抗議活動は続いていくと予想される。何しろブラジルは、2014年にFIFAワールドカップを抱え、2016年にはリオジャネイロ五輪が開催される予定となっている。

Urban and Economic Legacyと呼ばれように、この10年、国を成熟する過程(インフラ等)として「オリンピック」は必要なツールとされてきた。IOCもこの都市開発型五輪開催に賛同するように、2008年北京・2014年ソチ(ロシア)・2016年リオジャネイロ(ブラジル)というBRICSを始め、2020年は近年経済発展が著しいイスタンブール(トルコ)開催に前向きだったとされる。

しかし、国をあげての都市開発型五輪開催は、リスクが多く、ましてや連続開催になってくるとIOCも次第に予想を超える開発の遅れ(リオジャネイロは予定より2年遅れている)に限界を感じているようだ。ここで、今一度、国として成熟を終えた発展国が開催する「ソフト面を重視した(教育・文化)心のレガシー」都市型五輪開催に切り替える流れがでてきていると言えるのではないか。現在の世界情勢から「安心・安全・コンパクト」というのは大きな意味のあるメッセージになりつつある。

しかし、東京もまだ安心してはいけない。というのも、開催都市決定までまだ2ヶ月以上もあり、多くのローザンヌスポーツ関係者が「人は忘れやすい生き物。次は、いつ他の都市が問題を抱え状況が悪くなるかわからない。開催都市が決まる当日まで本当の所誰もわからないだろ。」と百戦錬磨の彼らは事の推移を冷静に観ている。仮に、イスタンブール(トルコ)が、今週末から行われるU-20FIFAワールドカップ開催を無事に終えたら、結局は大丈夫ではないかという流れにもなりかねない。いわゆる「同情票」と呼ばれる票がIOC委員の中からでてくる恐れもあるのだ。従って、「イスタンブール招致チーム」にとってU-20FIFAワールドカップは流れを取り戻す一つのポイントとなってくるだろうと予想される。

そして、もう二つ重要になってくるのが、1)来週にIOCから発表される評価レポートの内容と2)7月3日・4日に行われるIOC委員に向けた説明会である。もちろん、評価レポートはIOC委員全員に配られる予定となっておりIOCの視点からどのようにまとめられているかが気になる所である。

また、IOC委員に向けた説明会では、投票権を持つ約100人のIOC委員が参加する為(ANOC総会では約40名のIOC委員が参加)、非常に重要なアピールの場となる。2009年には、2016年五輪開催を勝ち取ったリオジャネイロがこの説明会で招致成功の流れ(風を吹かせた)を作ったと言われており、今回の説明会で東京が大きな流れを作れるかどうかというのが重要になってくる。

最後に、確かに、現状のローザンヌでの反応を見る限り、東京は一歩リードしているように感じるが、ライバル都市が巻き返す可能性は十分にあり、最後の最後まで油断ができない状況は続くのではないかと思う。

2013年5月30日木曜日

「2020年オリンピック種目最終候補」は今後どうなるのか?

 2020年オリンピック種目最終候補が決まった。結果的に、レスリング、スカッシュ、野球とソフトボール(以下:ソフト)が9月の総会に向けての最終候補競技となった。IOC副会長であり、次期IOC会長の最有力候補のトーマス・バッハ氏(ドイツ)が記者会見後、「チームスポーツ(野球とソフト)、個人スポーツ(スカッシュ)、格闘技(レスリング)というバランスが取れた3競技を選ぶことができてよかった」と述べたように、IOC理事間でも今回は納得のいく決断だったようだ。
 


                                                    (source from朝日新聞)

  今回は、過半数(総数14)の票を得る競技が出るまで、最下位を除外して投票を繰り返すという投票方法で行われており、レスリングは、第1回目の投票で過半数の8票を獲得し、早々に9月のIOC総会の「最終種目候補」となった。他の競技であるスカッシュ、野球とソフト、空手は接戦だったようだ。この結果からもわかるように、IOC理事会は、2月に2020年オリンピック競技からレスリングを除外候補に決めたにも関わらず、5月には「最終種目候補」に戻すという決断をした。

 はたして、これらの一連の動きがどういう意味を示しているのか?

 スカッシュは、オリンピックスポーツに採用される為、ロビー活動に年間$2.4 million (約2億5千万円)の予算を計上するなど、ロビー活動に積極的に投資してきたと言われている。さらに、空手は、今回で3回目の挑戦であった。そもそも、IOC理事会の当初の目的は、競技の入れ替えであったが、結局レスリングを戻すというのではあれば、何の為に理事会を行い、レスリングを外したか疑問が残る。長年、オリンピック競技になる為にロビー活動をしてきた他の国際競技連盟の立場はどうなるのか。

 また、あくまでも個人的な見解だがレスリングという伝統競技の除外に対する反応は、絶対的な権力を持つIOCにとって想定外だったと思う。従って、最終判断をIOC理事会で決めるのは難しく、約100人のIOC委員が投票する総会に決定を委ねるしかなかった。多くのIOC委員がレスリング復活を望んでいることは周知の事実であり、9月の総会でレスリングがオリンピック競技として戻ってくる確率は非常に高いと言えるだろう。

 従って、今回、「最終候補種目」を3種目にしたのは、長年ロビー活動をしてきた国際競技連盟の反発を少しでも抑える為であり、結局は、9月のIOC総会でレスリングがオリンピック競技として戻ってくる一つの筋書きでしかないのではないか。