2013年4月26日金曜日

オリンピックとNew Media


 
    IOC(国際オリンピック委員会)が中心となって設立した大学院、AISTSの1つの特徴として「スポーツテクノロジー」の講義をカリキュラムに入れている所にある。4月は、IOC、Youtube、Crystal CG International、EKSから各メディア担当者が「New Media」の講義に来てくれた。Crystal CG InternationalやEKSは「イスタンブール」のコンサルティング会社であり、IOCとの強い繋がりを印象付けるように「イスタンブール招致関係者」がAISTSに度々来るように感じる。
 
   さて、本題の講義については、「オリンピックとNew Media」、「IOCの次なる挑戦について」である。2000年シドニー五輪時から長らく議論されてきた「インターネット中継」問題。ネット放送は、IOCが巨大五輪の基本的な枠組みとして築いてきた「国別放送」「テレビ局独占」という大前提を覆す恐れがあるとして懸念されてきた。しかし、ロンドン五輪時にNBC五輪特別サイトのページビュー(PV)の観点から一定の成功を収めると、IOCは「インターネットビジネスの可能性」について本格的に認識し始めた。講義のポイントは、今後、IOCはこのまま「インターネット放映権」をテレビとのセット販売で行くのか、独自の新しいビジネスモデルを構築するのかに焦点をあてる形となった。結論から言うと、彼らは「現時点では、まだ分からないが次回の2020年以降のオリンピック放映権契約時に少なからず変化があるのではないか」という見解のようだ。

   そもそも、「テレビ放映権料」がIOC収入の50%近くを支える巨大五輪の根幹となり、テレビ局が「IOCのお得意様」になったのは、1984年ロサンゼルス五輪の組織委員長であるピーター・ユべロス氏の五輪改革の成果である。結果、過去赤字続きで各都市から不人気であった「オリンピック」は、ロサンゼルス五輪で黒字化へと導かれる形となった。それ以降、テレビ局の意向は、競技方法を変える程、優先順位が高いものとなった。

   しかし、近年、IOCのテレビ局に対する優先順位が変わってきているのではないかと思わされる事項が、講義を通し私なりに検証した結果、3点あるように思う。

 まず、1点目は、今年の2IOC理事会で決定された「レスリングの除外候補」問題。「レスリング」は、米国の人気スポーツである。そして、米国向け放映権を持つNBCは、14年ソチ冬季から20年夏季大会まで438000万ドルで契約している上、国際的普及、チケット売上、テレビの視聴率の観点から26競技から最下位になる事はとても考えにくい。IOCが五輪全体の選手数を減らすため、国際レスリング連盟に競技種目統一の対策を求め、その対応が鈍かったのは分かるが、テレビ局の意向を考えれば、「除外候補」という屈辱的な烙印を押すことは少なからずできないはすである。これに対して、もちろん、米国オリンピック委員会は、全力で「レスリング」のオリンピック種目復帰にサポートすることを約束している。

 そして、2点目は、上記にも記載しているが、IOCがロンドン五輪時に、「インターネット本格中継」を容認すると同時に、動画サイト「Youtube」向けにオリンピック映像を無料提供した点である。もちろん、多額の放映権を払っているNBCは猛反発したが、これには、近年、IOCが最も力を入れている「若者のスポーツへの取込み」という課題を優先させた事に他ならないと考えている。理由として、「Youtube」は基本的に、10代、20代といった若者世代に最も使用されているNew Mediaであるからだ。

 3点目は、2018年韓国・平昌、2020年日本・東京というアジア連続開催になるかもしれないという点が意外に問題視されない点である。当然のように、多額の放映権を払っている米国NBCは「リアルタイム」放送の為、時差があるアジアの連続開催は避けたいところである。しかし、私がローザンヌに来てこの4ヶ月、様々なオリンピック関係者と「2020年の招致動向」について話を重ねている限り、1度も東京のデメリットとしてこの問題を指摘された事がない。
   
以上の3点から、あくまでも主観的な見解になるが、IOCの優先順位はテレビ主体のビジネスモデルからNew Media主体のビジネスモデルに変わろうとしているのではないかと講義を通して感じた。是非、次回の2020年以降のIOCとテレビ局との契約内容に注目したいと思う。

2013年4月16日火曜日

Olympic Legacy ② ~The case of London ~













前回のブログでは、「Olympic Legacy」とは何なのか?
そして、「Legacy Plan」を作る重要性について述べてきた。

今回の投稿では、2012年ロンドン五輪を「Case Study」として、ロンドン組織委員会、英国政府が取り組む具体的な「Legacy Plan」について見ていきたいと思う。

その前に、なぜ、ここまで「Legacy Plan」にこだわるのか?

理由として、明確な「Legacy Plan」を作らなければ、人の心を動かす具体的な「メッセージ」を作ることはできない。「オリンピック」というメガスポーツイベントを通して開催都市はどうしたいのか?どうなりたいのか?この点に関して、ローザンヌで、東京は「オリンピックを開催しなければいけないメッセージを明確にしないといけないのでは」と、度々、オリンピック関係者との議論で指摘されてきた。従って、もっと日本でも「Olympic Legacy」に関する議論がされるべきであるという思いがあるからだ。

発展国の都市である、ロンドンと東京は、リオジャネイロと違い共通点も目指すものも近いと言われてきた。ロンドン五輪関係者が作る「Legacy Plan」は大いに参考にするべきだと思う。

では、2012年ロンドン招致委員会・組織委員会・英国政府は「Legacy Plan」をどう考え、実行に移しているのか?

英国政府は、2008年6月に「Legacy Action Plan」を発表。実は、その前年度に、「Legacy Plan」として1度発表されていたが、より効果的、具体的な「5つのプロミス」という形で再度発表された。それほど、英国は「Legacy」に対して積極的なのである。
「5つのプロミス」は、以下の通りである。

1. 英国を、世界をリードするスポーツ大国とすること
2. ロンドン東部地域中心部を変革すること
3. 若者世代をインスパイヤーすること
4. Olympic Parkを環境に配慮した持続可能な生活を促進するものにする
5. 英国が、住みやすく、働きやすく、ビジネスもしやすい、そして、人々を歓迎する場にすること

その中でも、2012年までの「Legacy action plan」として「Sporting Legacy」の部分では具体的に落とし込まれている。

1. 2012年までに5歳から16歳の全ての英国の子供達に1週間当たり5時間、16歳から19歳までの
  子供達に3時間のスポーツ時間を提供すること
2. スポーツエリートの育成。2012年大会にて、オリンピックのメダル数で4位以内に、パラリンピッ
  クのメダル数で2位以内に入る
3. 2012年までにイングランドの少なくとも200万人がスポーツに活動的になるように支援する

そして、2012年1月には、今後の2012年ロンドン五輪後の最優先レガシープランとして、「ユース・スポーツ戦略」が発表された。これは、今後5年間に宝くじと国家予算から捻出した計10億ポンド(約1500億=2013年4月現在の為替レートから)の投資を行い、若者のスポーツ離れを阻止しようという試みである。

それと同時に、2016年リオジャネイロ五輪までに若手スポーツ選手をエリート教育すること、学校教育に「スポーツゲームプログラム」を導入し「学校スポーツ」を盛り上げることも挙げている。

また、2019年までに20の国際的なスポーツイベントを誘致する為に、積極的に招致活動を行っていこうというプランもある。

一方で、ハード面に関して、ロンドン東部ストラトフォード地区という貧困地区を再開発し、大会で使用されてきた「Olympic Park」はクイーンエリザベス公園となり、都市公園に生まれ変わることを目指している。ロンドン東部地区は、長い間工業地帯として使用されてきた為、有害化学物質による土地汚染に見舞われ再開発を避けられてきた地区であり、その為、西部と東部では貧困の差が大きくなったと言われている。

2012年ロンドン招致委員会は、「Legacy Plan」を特に「若者世代のスポーツへの取り込み」にフォーカスを 当てたことがIOC(国際オリンピック委員会)の思惑と一致し、招致も少なからず有利に進められたのも事実である。

「オリンピック」を東京に持ってきたいのであれば、IOCが現在考えている事、そして、将来的に何を優先していくかという考えを汲み取り「Legacy Plan」を作っていかなくてはいけない。たかが、「Olympic Legacy」と思われるかもしれないが、少なからず「招致成功」に影響を与える要因である事は間違いない。

2013年4月15日月曜日

Olympic Legacy ①

久しぶりの投稿である。

前回のブログでもアップした通り、約1週間に及ぶ「Easter Break」も終わり、先週から講義が始まった。

休暇後の第1週目の講義は、「Olympic Legacy」についてだ。

「Olympic Legacy」という言葉をご存知だろうか?

私自身も日本にいた時は、ほとんど聞いたことがなく、特に関心を持ったことがなかったが、
スイス、ローザンヌに来て、IOC及びIFs関係者から度々「Olympic Legacy」の話がでて来ることが多く、非常に重要な「テーマ」である事に気付いた。

東京が2016年の五輪開催国として立候補した時、当時のIOC評価委員会は、報告書の1部に以下のような評価を残している。

"During its visit. the Commission felt that legacy plans for certain permanent venues were unclear."

簡単に言うと、2016年の東京レガシー計画(ハード面)は、明確ではないと示されている。

では、なぜ、この話題を出すかというと、「Olympic Legacy」というテーマは、IOC(国際オリンピック委員会)が最も力をいれている部分であり、オリンピック憲章には、「開催都市・開催国は、建設的なレガシーを促進すること」と明記されており、オリンピック立候補都市にはレガシープランを提出する事が義務づけられているのである。

その理由として、開催都市・開催国にとっても、インフラに貴重な公費を使ってオリンピックを開催する以上、オリンピックが一過性のイベントに終わったり、ましてや会場がその後有効利用されず、維持費のみかかる意味のない物にすることを避けなくてはいけない。そのためにも、オリンピック開催により得られた効果をどのように継続していくかをIOCは開催都市・開催国に徹底的に考えさせる訳である。

今回は、「Olympic legacy」の基本について説明したい。

まずは、「Olympic legacy とは何なのか?」

「オリンピック」というメガスポーツイベントを通し、長期的、そして、短期的な視点から、開催国となる都市をどのような形で「発展」させる事ができるのか、そして、次世代にどのような「遺産」を残し、
「オリンピック開催」により得られた効果が将来的にどう持続していくかをポイントとしている。

次に、「Olympic Legacyには、どのような視点があるのか?」

1. Sporting Legacy


「スポーツ」をする機会を増やすことを目的とした、スポーツ施設の使用、そして、開催国が投資したインフラをどのように次に使用するべきなのか、より多くの人がスポーツに参加する機会を増やすためにプログラムを作ったり、その為の指導者をどのように育成するべきなのかをポイントとしている。




2. Social Legacy




民族差別、性別差別、人種差別、宗教差別に対して「オリンピック」というメガスポーツイベントを通してどのように無くしていくのか、そして、それに対して自尊心と連帯意識の向上、異文化の理解を深める事にどう繋げていくかをポイントとしている。










3. Environmental Legacy

「オリンピック」というメガイベントを通し、どのように環境問題に取り組んでいくべきか。例えば、「オリンピック」開催に向けて「新しいエネルギー資源」を取り入れたり、「オリンピックパーク」と題し、植林を行い都市の中に新しい公園を建設する。以上の取り組みの中から、発展都市を新しい環境に優しい都市へと変えていく、比較的発展国の開催都市が目指す「Olympic Legacy」である。※2012年のロンドン五輪は、環境問題に特に力を入れていたと言われる。



4. Urban Legacy


「オリンピック」というメガイベントを通し、投資を集中させ、建設を増やしどのように発展途上国から発展国の都市へと変革を遂げるかをポイントとしている。※2016年のリオジャネイロ五輪がこのケースに当てはまる。





5. Economic Legacy

「オリンピック」というメガイベントを行うことで、開催都市はどのくらいの経済効果を生むのか、そして、GDPはどのくらい上昇するのかをポイントと置いている。そして、「オリンピック開催」に伴う新規雇用について、「オリンピック開催」に直接的に関わる雇用、そして、間接的な雇用はどのくらい生まれるのかも大きく関わってくる。



以上の大きく分けた5つの視点から、今度は、ハード面(競技施設、宿泊施設、交通インフラ)、そして、ソフト面(教育・環境面の向上)の視点に分けて考えられることが多い。

また、IOCの部門にも「Transfer of knowledge」という部門があり、現在、2012年ロンドン五輪のレガシーをどのように2016年のリオジェネイロ五輪に引き継ぐかに注力されており、「継続性」に非常に重きを置いているのがわかる。

次回は、2012年ロンドン五輪の「Olympic Legacy」について注目したいと思う。